一夜興行の旅の途中

見果てぬ夢(ラ・マンチャの男)

彼とは私が独立した頃、今から20年程前に知り合った。


その当時、彼は前年比で倍々ゲームのように業績を伸ばし業界の「注目の人」と持て囃されていた。
相手が私のような駆け出しのヒヨッコで同じ年の気安さからか、自分の幼少の頃の惨めな生活や創業時の苦労話。それでも今は飛ぶ鳥を落とす勢いの会社を何年後かには上場させる夢を熱く語っていた。

私は何の利害関係も無いのでその出世物語を良くチャカしたものだ。

そんな彼とは、よく一緒に食事して他愛の無い冗談や業界のオフレコ話で盛り上がり、彼の家にまでお邪魔する間柄になった。
本当はもっと親密に永くお付き合い出来たのかも知れないが、自分よりも小さいモノを蔑むような言動や自分以外の人間は誰も信用していない一面が垣間見えたので二年程の短い付き合いで終った。

知り合った頃がまさにテイクオフした瞬間、前年比倍々で業績を伸ばし全国的に注目され、やる事なす事全てが自分の考え以上に成功し自信満々だった。
彼は決して冷酷非情な人間では無い、現状よりも更に上のステージで活躍するには、彼のようなビジネスライフに徹した性格が良いのかも知れない。
その後の活躍は彼から直接聞くことは無かったが、大手企業と呼ばれるトップの人達と交流を深めているのは知っていた。
その彼とは、7年程前に盛大に開催された彼の会社の○○記念パーティーで話をしたのが最後だったような気がする。



今日、私の会社に一枚のFAXが流れてきた。M&Aに関するプレスリリースで彼の会社が買収された記事だった。
代表取締役の彼の名前は残っていたが、その上に会長職で別の名前が記載されていた。

会社を上場させたい。という夢。
このM&Aで彼の夢が叶ったかどうかは、私の知るところでは無い。

ただ、M&Aの数年後には自分の会社を寂しく去っていった創業者を何人か知っている。
彼も知っているはずだ。
自分はあんな風にならない。と言ってたのだから。

そんな事を思い出していると、携帯に登録されていない電話番号が表示された。
なんと彼だった。プレスリリースを送ったのも彼だった。

「良く私の携帯番号覚えていたなァ」と挨拶をした。
彼は、明日が正式発表だけど一言挨拶しようと思って。

私は、FAXに記載されているように友好的なM&Aだと思っています。と伝えた。



「もう一度、頑張れよっ」て言わなかった。

いや、言えなかった。
[PR]
by udauda-1 | 2007-12-11 21:17
<< ちょっと良い話 年末の酔っ払い >>